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この手は、幼い日に繋いだ手。不安で一杯だった、心細さを一瞬で拭ってくれた優しい手。
けれど、今は違う。この手から美羽は痺れるような切なさを貰う。
「お兄さん……」
弱くとも、しっかりと大きな手を握り締めた美羽を忍はそっと抱き寄せた。
辺りに人の気配はなく、沢を流れる優しい水音のみが木々の間から聞こえるやすらぎの空間。
遠くから微かに鳥の鳴き声が聞こえていた。
日曜日だった。
休みだった忍が朝から出掛けていった。
暫くすると、家にいた美羽にメールが届いた。
忍からのそれは、駅にいる、という内容のものだった。
直ぐに身支度をした美羽は家族に、友達と遊びに行ってきます、と言い、家を出た。
忍と落ち合うと、美羽は遠慮がちに言った。
「一緒に、どこかを歩きたいの」
それは、ずっと夢見たことだった。
誰かに会ったりしてはいけない事は分かっているけれど。
外の同じ空気を吸いたかった、一緒に同じ景色を見たかった。
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