26人が本棚に入れています
本棚に追加
美羽のささやかな我儘。
忍は駄目とは言わなかった。
慎重に考えた彼は、知り合いに会う確率が低そうなここに美羽を連れてきたのだ。
ひんやりとした冬の空気に冷えていた身体が、愛しい人の温もりに震える。
「寒いか」
「ううん」
忍の腕に抱かれ、美羽は幸せそうに微笑んだ。
それを見て、忍も優しい笑みをみせた。
手を繋いだまま身体を寄り添い、二人はゆっくりと歩き出した。
足元のあちらこちらにどんぐりが落ちていた。
風に吹かれた落ち葉がかさかさと鳴り、踏めば乾いた音をさせる。
空を見上げれば冬の高い青空の下、紅葉の最盛期を終えた木々が枝を拡げる。
そのところどころに常緑の葉を付けた木の梢。
美羽の脳裏に、この風景をどこかで見た、というデジャブが起きる。
寺の境内、参道、遊歩道。
果たして、自分はここに来たことがあっただろうか。
「美羽、どうした?」
最初のコメントを投稿しよう!