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「先生がそのお膝元から僕を遠ざけたいのは、なぜですか」
一見、率直で、ストレートな問いだが、忍の問いの本質はもう一つ踏み込んだものだ。
もっと掘り下げて問いたい事がある。
僕が、緒方紗羽の甥だからではありませんか。
呑み込んだ言葉は胸の中で反芻した。
必ず、紗羽が一枚噛んでいる筈だなのだ。
窓を背に座る原は背後から夕焼けの光を受け、逆光となる。
西日の眩しさに忍は目を細めた。
温和な笑みを微塵も崩さず、原はゆっくりと口を開いた。
「どんな良好な関係も、破綻と隣り合わせ、表裏一体とは思わないかね?」
忍は、黙って原を見詰めていた。
原は視線を切らすことなく忍を見据え、言葉を継いだ。
「良好な関係を長く続けるためには、距離を置き、離れることも必要だと思わないかね。
君と私は良好な師弟関係を築いてきた。
この良好な関係を保っていく為に離れなければいけない時がくると私は以前から思っていたのだよ」
「それが、今だと?」
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