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抑えていた感情が、自らが思うよりはるかに冷たさを含んだ声に現れた。
師は、自分が本当に問いたい事を知っているであろうに。
原は、うむ、と答え、言った。
「君ほど優秀な人間には、他所で研鑽を積み、大いに飛躍して欲しい。
そのチャンスときっかけが上手く重なった今がその時ではないかね?」
原の言葉は暗に、好条件を示されているうちに移籍した方が身の為だ、と言っている。
黙したままの忍に原はゆっくりと言葉を繋げた。
「私と君の関係を保つ為でもあるんだよ」
忍の耳に滑り込んだ、含みを持たせた低い声は絡みつくようにまとわりつく。
‘関係を保つ為’という偽善的な言葉が不快に尾を引いていた。
忍は、手にしていたパンフレットをまとめ、ゆっくりと口を開いた。
「即答は致しかねますが、今回は前向きに検討してみます」
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