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とは言っても、気にかかる綾子の表情は嫌でも視界に入ってくる。
賢吾はキャップに手を掛け、視界を遮るようにして歩こうとした時だった。
綾子の、忍を見詰める寂しげな表情を、賢吾は見てしまった。
忍は、綾子に視線を向けることはない。
その光景に、賢吾の中で何かが崩れる音がした。
報われぬ想いを抱える苦しさは、アイツに分かるのだろうか。
賢吾は、駅に向かうのをやめ、踵を返した。
そして、寮へ戻る門戸を開けながら、携帯を取り出した。
戸を締め、寮敷地内に戻った賢吾は友人に今日のキャンセルを伝えると、次に別の連絡先をアドレスから引き出した。
一瞬の躊躇いを見せた賢吾だったが、一呼吸置いてその番号に掛けた。
「ああ、先日お話しをさせていただいた、脳外科の館山です。
一つ、思い出したことがあったので連絡させていただきました。
……ええ、循環器内科で内々に処理した、外部に漏れていない事故です。
それが、恐らく今回の件と何らかの関係があるかと。
調べてみれば分かると思います。詳しいことは――、」
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