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「ここだけの話、ヘタなお偉い先生よりも、心臓のエキスパートよ」
居合わせた看護師達は、一様に頷いていた。
冬の空っ風に、フワリと巻き上げられ躍る髪を綾子はしなやかな手付きで押さえていた。
外来棟の玄関の脇にはベンチがずらりと横並びに据えられている。
そこでは、外の空気を吸いにきた入院患者や、外来患者が休む姿が見かけらたが、医師や看護師はあまり来ない場所だった。
「γの計算式ですね」
「さすがね、暗号みたいになってるのに見ただけで直ぐにわかるの」
ベンチに、少し距離を置いて綾子と忍が座っていた。
綾子は白衣のポケットに両手を入れて浅く座って空を見上げており、忍はタブレットに視線を落とし、指でスクロールを続けている。
傍から見れば、まるで無関係の二人がたまたま隣に座っているかのような、風景の中に自然と溶け込む光景だった。
院内で二人で会うようなことは殆どしなかったが、たまに会う時はこんな形で落ち合っていた。
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