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時間差で病棟に戻った綾子と忍の姿は、賢吾の目に留まっていた。
病院敷地内にある独身寮だが、病院とは塀でしっかりと区切られており、オートロックの戸が付いている。
寮に住まう者は仕事に行く際もプライベートの外出の際も、その戸をくぐる。
そして、駅へ向かう際は外来棟の前の道を通るのだ。
やっと休みが取れた賢吾は、高校時代の友人からの誘いを受け、駅へ向かうところだった。
寮から仕切りのドアを開け、寮敷地から病院敷地へ出た賢吾は綾子の姿を見付けた。
医師があまり立ち寄らないベンチにいた白衣が目を引いた。
綾子先生、どうしてそんなところに?
目を凝らした賢吾はその直ぐ隣に忍の姿がある事に気付いた。
まるで偶然居合わせた知らぬ者同士のように互いに距離を取り座っているようだったが、遠目に見ても、二人の間に流れる空気が周囲と違うことが分かった。
微かな動揺を覚えた賢吾だったが、知らぬふりをしてやった方がよさそうだ、と被っていたキャップを目深に直し、足早に通り過ぎることにした。
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