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紗羽と和也の間にあるものを疑うことでしか、自分を保つことが出来なかったのだ。
忍は、深いため息を吐いた。
紗羽は、和也の事をどう思ってきたのか。
一日の大半の時間を紗羽と過ごしていた頃の忍はまだ幼かった為、あの頃の、彼女の心の細部が窺い知れたであろう所作までは覚えていない。
黙り込む忍の考えている事を読むように、和也は話しを続けた。
「奈緒が、さっちゃんと僕の関係を、美羽が生まれてからの二十一年間ずっと疑っていたとは、さすがにショックだったな」
忍は、ハッと和也を見た。
「それは……」
忍の言いかけた言葉を遮るように和也は続けた。
「さっちゃんが、僕にちゃんとした形で想いを打ち明けてくれたのは、美羽がお腹にいる時だよ」
疑惑の渦中にある真実を自ずと照らし出す言葉だった。
真っ直ぐに見据える忍の視線をしっかりと受け、和也は遠い昔の、引き出しの奥にしまっていた大切な記憶を手繰り寄せるように、ゆっくりと話し始めた。
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