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東側の窓から射し込む日差しが温かく柔らかな、冬の昼下がり。
東に南に窓がある原教授の部屋は、昼間は暖房が効き過ぎる。
午前の診察を終えた原教授に呼び出された准教授の広尾は、白衣のポケットから出したハンカチで額の汗を拭っていた。
電話中の原を待つ間、ソファに座って待っていた広尾だったが、室温の高さと緊張で気持ちが悪くなりそうだった。
額に滲む汗は、温度によるものだけではなさそうだ。
冷や汗かな。
そっと苦笑を浮かべた広尾が、もう一度汗を拭った時。
「待たせて悪かったね」
電話を終えた原が、そう言いながら広尾の向かいの一人掛けソファに腰を下ろした。
「広尾君はタバコを吸うんだったね。
いいよ、遠慮せず吸って」
原は、広尾の緊張を解そうと、応接セットのテーブルの上に置かれていた大理石の灰皿とライターのセットを指示し、喫煙を勧めた。
しかし広尾は、今タバコを吸う気にはなれず、いえ、と手を軽く横に振った。
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