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そうかね、とだけ答えた原は、穏やかに話しを始めた。
「緒方君の噂、随分拡がったようだね。
脳外の佐野先生のところまで伝わっていたよ」
穏やかな顔に僅かな笑みを浮かべた原の表情は楽しげに見えた。
原を真っ直ぐに見詰める広尾はその笑顔に微かな慄きを覚えた。
「君のお手柄かな」
「いえ、申し送りの時に看護師に呟いてみただけです」
原は、満足そうに頷いた。
含みを持たせた広尾の言葉が、原には充分に伝わったようだった。
付いて行かねば、自分に未来はない。
今の広尾を支配するものは、それだけだった。
しかし、先月のカンファレンス時のこともある。
先月のカンファレンス。
そう、大御所が一堂に会するあの週一カンファレンスでのことだ。
血液透析を見送った患者の件を、あくまでも緒方忍が勝手に行った行為とし、彼にあの場で謝罪をさせようと原と広尾の間で決めていた筈だったのに。
蓋を開けてみれば想定外の展開。
あの日、広尾には、原に裏切られたという感しか残らなかった。
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