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信じすぎていると思わぬ形で足元を掬われる、落とし穴が待っていそうだった。
広尾は、心中で流れるいやな汗を拭うように、頬を伝う汗を拭った。
決して、心からの信頼を寄せるわけではない者同士が同居する室内には牽制し合う張り詰めた空気が流れていた。
空調の音が、緊張の鼓動と妙なリンクをみせる。
そんな中で、原はフワリと笑みを浮かべ、手にしていたメモ用紙をそっとテーブルに出した。
広尾は、眼鏡の奥の神経質そうな瞳をきらりと光らせ、それを受け取り、目を通した。
広尾の様子を注意深く観察しながら原は、静かに言った。
「緒方君が担当している研修医、斉藤君といったね。
彼は、相変わらず?」
原の問いに隠された意を、広尾はすばやく察知した。
「ええ、相変わらず落ち着かない様子で」
ふむ、と原は腕を組み、何か思案する様子を見せた。
そして、何かを閃いた表情を見せて口を開いた。
「今回のそれは、緒方君のパソコンから斉藤君のIDで入力してくれないか」
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