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頬を伝った汗が、首筋に到達するのを感じながら、広尾はゴクリと固唾を呑んでいた。
無言の圧力だった。
もう引き返せないのだ。
広尾には、わかりました、と答えるより道は残されていなかった。
渡されたメモの内容を確実に頭に入れた広尾はテーブルの上の灰皿にその紙を丸めて置いた。
そして、自分のライターで火を点け、燃やした。
先生は、いつからこんな風になられたんだったかな。
赤々と燃える小さな紙片を見つめる広尾はぼんやりとそんなことを考えていた。
地位を守る為? 金の為? 権力を笠に着る為?
どちらにしても、今ここにいる原は、広尾が学生の頃から知る恩師とはまるで別人。
しかし、別人のようになってしまったと分かっていても、付いて行かねば、自分の先に続く道を見失う。
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