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庭の桜の木が見事な花を咲かせていた、よく晴れた春の日だった。
仕事を早めに切り上げて帰ってきた和也は、薄紅色の花びらが春風に乗ってひらひらと舞い落ちる縁側の陽だまりでひなたぼっこをする紗羽を見つけた。
幅広の廊下が続く縁側は、開け放たれた窓からうららかな陽射しと温かな春風が優しく吹き込んでいた。
時折ピンク色の花びらが舞い降りてくる中で、ゆたっりとしたロッキングチェアに座る紗羽は、大きくなったお腹を撫でながら何か話し掛けていた。
「さっちゃん、ただいま」
和也の声に顔を上げた紗羽は、微笑んだ。
「おえりなさい、和也さん。
今日は早いのね」
「ああ、今日は土曜日だからね。
さっちゃんは、身体の調子はどう?」
ジャケットを脱ぎながら和也は紗羽の身体を気遣った。
紗羽は、大丈夫よ、と重そうなお腹を抱えて立ち上がった。
「早く出して~、ってお腹を蹴られるから、それは痛いんだけど」
そう言いながら笑う紗羽は、幸せそうに見え、和也は目を細めた。
彼女も、生まれてくる子も幸せになれるのだろうか。
そんな不安が和也を襲う。
しかし、紗羽は妊娠が分かってから一度も憂う姿を見せていない。
それがかえって家族の不安を煽った。
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