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「ごめんなさい、和也さんの顔には何も付いてないわよ」
なんだ、と眉を下げた顔をしてみせた和也に、紗羽はフワリと微笑んだ。
「あのね、こんなに穏やかな気持ちで和也さんと向かい合ってお茶が飲める日が来るなんて、って思ったの」
和也は、え? と改めて紗羽を見た。
紗羽は穏やかな笑顔を見せて和也を真っ直ぐに見詰めていた。
「私は、和也さんが好きだったの。
奈緒が和也さんに会う前から」
あまりにもあっさりとした告白だった。
「ああ、すっきりした。
ずっと私の中にあった想い、やっと言葉にできた」
明るく爽やかな声は部屋を、空間の時流を止めなかった。
にっこりと笑った紗羽の爽快な笑顔と自然な明るい声音は、二人を包む空気が重くはしなかった。
紗羽の、精一杯のさり気なさの為せる技。
紗羽は首を竦めていたずらっぽく笑った。
「もう、時効でしょう」
過去であることを強調するような言葉は、和也が重荷を背負わぬように、精一杯の明るさを持って、しこり、わだかまりを残さぬように、という紗羽の心意気だった。
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