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和也の話を聞き終わった忍は両手で顔を覆った。
美羽だ。美羽に似ている。
いや、美羽は、紗羽の精神をそのまま受け継いだのだ。
忍の胸に込み上げるのは、美羽への狂おしいほどの愛しさ。
もう遅い、今さらどうする事もできないというのに。
手で顔を覆ったまま動かない忍に、和也は静かに言った。
「神に誓ってもいい。
美羽は、僕の子ではないよ。
検査をしてもいい」
美羽とは、実の兄妹ではなかった、という事実は、和也の言葉を黙って聞いていた忍の胸に安堵をもたらした。
あの、美羽と過ごした濃密な時間が、禁忌を犯してのものではなかったのだ。
しかし、そんな安堵もすぐに陰鬱な闇に呑まれる。
今さら、そんなことに安堵したところで、拗れ、深い溝が生まれてしまった美羽と自分の関係が快方に向かうことはもうないのだ。
忍は低い声で言った。
「別に、検査なんてしなくてもいい。
父さんの言葉は信じられる」
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