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「お義父さんのことは、僕が美羽に伝えておく」
和也の言葉には「これ以上美羽と関わるな」という暗黙の忠告が込められていることを汲んだ忍は息を吐き、ああ、とだけ答えた。
「俺は、近いうちに出ていくから。
あとはよろしく」
短い言葉を置き、忍はその場を立ち去った。
忍のスレンダーな長身の後姿を見えなくなるまで見送った和也は、再び沈黙が訪れた廊下で一人深いため息を吐いた。
話せなかったことがある。
これは、絶対に墓場まで持って行かなければいけない。
和也の耳に今でも鮮明に残る声、腕に残る、感触。
決して、口にしてはいけない。
彼女との、約束。
「さっちゃん、僕は、守り通せるかな……」
和也の小さな呟きは、廊下の闇に呑まれ、消えた。
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