信じるものは #2

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 綾子の、あの忍を見詰める顔を見ていられなかった。 緒方忍を、この疑惑の渦中に引きずり込んでやろう、とその時一瞬でも思ったのだ。 それを打ち消す為に、自分に‘偽善’の嘘を吐いたのだ。  それはさすがに、綾子には言えなかった。  再び、頭を抱えて黙り込んでしまった賢吾に、綾子は言葉を失っていた。  賢吾は、強い男だった。 妬み、嫉み、そんなものとは無縁の、明瞭快活な男と思っていた。 しかし、ここにいるのは、打ちひしがれ、自信を失いかけた、一人の男。  綾子は、その逞しい身体をそっと抱き締めていた。 「あなたは正しいことをしたの」  賢吾が、両手で覆っていた顔をそっと上げた。柔らかで清涼な優しい香りが賢吾の鼻先を掠めた。 「綾子先生?」
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