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賢吾の顔がゆっくりと解れ、崩れる。
今にも泣きそうに見え、綾子は胸を打たれた。
決して弱い姿を見せることのない、凛々しく逞しい男。
しかし、強さの中に弱さも持ち合わせ、それを普段はしっかりと自身の中でバランスを保ち、前に進む力を持っている。
それは何故か。
「館山君は、自分の弱さから目を逸らさずに、しっかりと見つめて、それを隠さない、ごまかさない。
今を乗り越えて、また強くなれる館山君なら、私は付いていくわ」
強さも弱さも、しっかりと持ち合わせ、それを的確に自らの中に認識している。
心の弱さ、痛みが分かる人間は、強い。
綾子は、この人となら、と思ったのだ。
この人を支えたい、そう思えたのだ。
付いていく、という言葉に綾子は精一杯の想いを込めたのだが、賢吾は綾子にフワッと笑いかけた。
「そうですね、緒方のヤツはこんな事くらい、跳ねのけてくれる。
緒方自身に疑惑がある筈がありませんからね。
俺は、俺のする事に真剣に向き合えばいい」
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