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賢吾は深く頷いた。
綾子は、賢吾に手を取られたまま、込み上げる涙を堪える為にうつ向いた。
賢吾の手は、大きく、力強く、それでいて優しかった。
この手に、ずっと寄り添っていたい。そう思う気持ちに嘘はなかった。
「ありがとう、館山君」
掠れていたが、しっかりとした声が賢吾の耳に届いた。
「綾子先生」
賢吾の声が少し明るくなる。
綾子は顔を上げた。
恥ずかしさを押し隠す、はにかんだ少年のような笑みを見せる賢吾は言った。
「キス、してもいいですか」
綾子は、目を丸くし、賢吾を凝視する。
賢吾の顔は真剣そのものだった。
あまりにも直線的で真っ直ぐな表情に、綾子は思わず吹いてしまった。
思春期の男の子みたい。
心中で呟くも、雄々しく男らしい容姿と少年のような内面の差に、胸が鳴る。
あの胸の疼きの原因は、これね、と綾子は初めて恋をした時の感覚を思い出していた。
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