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昼食を取った後、タバコを吸おうと喫煙室に行った綾子だったが、思いの外同じ考えの人間が多く、ゆっくりは出来なさそうだ、と喫煙は諦めた。
そこで、ここにやって来たのだが。先客がいた。
ここもダメね、と戻りかけた綾子だったが、その姿を見て立ち止った。
先客は、賢吾だった。
一人ベンチに座る賢吾は、長い足を組み、背もたれに腕を掛け、窓の外を眺める。鼻筋の通った端正な横顔とバランスのよい体躯が、窓の外の風景と一体となり一枚の絵のようだった。
賢吾の視線は、木枯らしに舞う枯葉の行方をぼんやりと追っていた。
一言で言って豪放磊落、回遊魚のように立ち止ることのない賢吾からは、あまり想像できない姿だった。
綾子は、賢吾に想いを打ち明けられてから話しをしていなかった。
決して嫌いな訳ではない。
むしろ逆。
綾子は、賢吾に対して少なからず好意は抱いていた。
綾子の胸には、賢吾の気持ちに応えたい、縋りたいという想いが確かにあった。
しかし、実直で純朴な賢吾に、未だ揺れる心を抱える自分が、真っ直ぐで一途な想いを捧げる自信のない女が相応しいとは思えなかった。
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