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たまに見せるこの少年の顔と、明るさは。
「館山君、お調子者って言われるでしょう」
照れ隠しによるものだ。
年上らしい、弟に言うような口調で綾子に言われた賢吾は照れ隠しの仕草か、人差し指で頬を掻く。
僅かにむくれたようだ。
滅多に見せない表情に、綾子は愛しさを感じた。
「館山君、キスは、断らずに強引にして、心まで奪う方法だってあるのよ」
今度は、賢吾が目を丸くする番だった。
少しの間を置いて、賢吾は肩を竦めて柔らかに笑った。
「やっぱり、綾子先生には敵いません。俺は」
すっと伸びた賢吾の腕が綾子を抱き寄せる。
綾子が、あ、と声を上げるのと、賢吾が綾子の頬に手を添えるのは同時だった。
そして、少し強引に唇が重ねられた。
求められてするキスは、こんな感触だったんだ。
忘れていた。綾子は目を閉じた。
唇が離れても互いに顔は離さず、額を付けた。
綾子は目を伏せたまま、小さく囁いた。
「私たちは、ゆっくり距離を縮めていきましょう」
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