信じるものは #2

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 賢吾に会えば、はっきりと気持ちを定められない自分の心を思い知らされる。 それがイヤだった。 だから、無意識に賢吾を遠ざけてきたのだ。  けれど、と綾子は賢吾の物思いに耽る姿に胸が締め付けられた。 躊躇いを振り切り、グッと拳を握った綾子は歩を踏み出した。 「こんなところで一人で考え事? らしくないわね、館山君」  不意打ちを食らったように驚いた賢吾は顔を上げ、綾子の顔を見て改めて、目を丸くした。 「綾子先生、どうしてこんなところに」  綾子は肩を竦めて笑った。 「喫煙室はたくさん人がいて、ゆっくりできないな、と思ってタバコを吸うのは諦めて、かと言って直ぐに医局に戻るのも嫌で。 ここに来たら少しぼんやりできるかしら、と思ったら、アナタがいました」  柔らかなトーンの美しい声が、吹き抜けの空間にこだまする。 賢吾の胸に心地よい響きを与えていた。 賢吾は、沈む心の奥底に沈殿する滓が浄化されたような錯覚を覚えた。
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