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傍に立つ綾子を見上げ、フワリと笑った賢吾は言った。
「少し、話し相手になってもらえませんか」
さり気なく座る場所をずらした賢吾に、綾子は少しはにかむような笑顔を見せて答えた。
「私でよろしければ」
そっと座った綾子からは大人の芳香。
綾子の美しい横顔を見た賢吾は眩しそうに目を細めた。
隣に座ったものの、二人は暫し、このヒンヤリとした空気、森閑の空間に身を委ね、窓の外を見つめていた。
綾子は、戸惑った。
話し相手に、と言われたものの、何を話すのか?
それとも自分から話せばいいのか?
いつもなら誰とでも自然に話せる綾子が切り出す話題に困っていた時、賢吾が口をいた。
「そういえば、綾子先生今、一人で考え事なんて俺らしくない、なんて言いましたね。
俺、あんまり考えない男みたいに思ってますか?」
カラリとした声だった。
ハハハと明るく笑った賢吾が、綾子の心を重くしていた負荷を解放した。
日当たりの悪さと同調した、重い空気が一気に軽やかなものに変わる。
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