約束のラフマニノフは、別れの序曲

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 下手に出ることは、負けを認めるような悔しさがあった。 自分には何も後ろ暗いことはない。 しかし捜査に協力するのだ。 ならば、と大河は敢えて高圧的な態度で応じた。  長身の大河に身下ろされる形になった刑事も、負けてはいなかった。 「どちらもお願いしますよ」  あくまで丁寧な物言いだったが、声音はドスが効いている。 大河は心中で舌打ちし、今手にしているビジネスバッグの中に入れてあったパソコン一台を刑事に差し出した。 「あとは、部屋にあるデスクトップだけだ。 勝手に持っていけ」  吐き捨てるように言い、奥の部屋を指さした大河に、刑事は、 「ご協力ありがとうございます」  と厭味な程丁寧に頭を下げて大河の部屋へ向かった。 「お前ら、社長のPCはそっちだ。 それはまるごと一台押収しろ」  オフィス内をガサる数人の刑事たちに主任刑事が声を掛けていた。 大河は、その姿を見ながら奥歯を噛みしめていた。
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