約束のラフマニノフは、別れの序曲

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 大河は、そりゃぁそうだろ、と心中で吐き捨てながらクシャッと頭を掻いた。  贈収賄関係が疑われた疑惑のスレッド。 笠原の知人経由で、とある大学病院内で新薬絡みの製薬会社と医師のやり取りがあったのでは、というところまで掴めていた。 然るべき法的手段は、こちらでしっかりとした裏が取れたら顧問弁護士に相談、という算段だった。 「甘かった」  大河は苦しげに呟いた。 公的機関はこの件についてとっくに内偵を進めていたのだ。  寺原の父は、製薬会社の営業を担当していた。 今回のことに寺原が絡んでいることは、十中八九間違いない。 何をどう、どんな形で、そして‘どこまで’かは分からないが。  大河は、一息いれる為にジーンズのポケットからタバコを取り出した。 出社した瞬間からこの身を襲った不測の事態に、タバコを吸うことも忘れていた。  一本取り出し、ライターで火を点け、深く吸い込み煙を取り込んだ時、渦を巻く大波と化していた感情が、少しだけ治まり、心頭に達していた熱がすーっと静かに引いていくのを感じた。
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