約束のラフマニノフは、別れの序曲

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 忍は、自分のデスクにあるこのパソコンにはパスワード等のロックを掛けていない。 電子カルテ等の重要なものはID、パスワードを入力しない限り閲覧、入力することは出来ない。 厳重に扱わなければいけないのはそのくらいのもので、パソコン自体にロックを掛ける必要性を感じたことがなかったからだ。  もっとも、ロック等かけなくとも、皆自身のパソコンを持っており、他人が使うことなどまずなかった。 まして、自分がいない間になど。  何か、嫌な予感がする。 忍は眉根を寄せた。 「緒方先生、どうしました?」  険しい表情でマウスを繰る忍に気付いた後輩医師は聞いた。 忍はパソコンの画面から視線を外すことなく言った。 「夕べから今朝まで、このパソコン誰か使ってなかったか?」  後輩医師は、え? 目を丸くした。
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