約束のラフマニノフは、別れの序曲

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 パソコンの画面の奥に潜む不穏な闇。 闇は浸み出し点を作り、次第に拡がり染みとなり、全てを覆ってしまうのか。 良心、正義を蝕む闇となるのか。  立ちっぱなしだった忍が椅子に腰を下ろし、改めて電子カルテを展開した時だった。 医局の出入口近くにあった電話が鳴った。 近くにいた医師がそれを取った。 「はい、内科医局。 え、斉藤? いや、ここにはいないけど」  自分が指導医を務めている研修医の名が思いがけないところで出、忍は顔を上げた。 「アイツが担当してるクランケが急変? なんだよ、アイツいないのか、その辺に! ピッチは? え、繋がらない?」  それを聞いていた忍は立ち上がり、傍にあったPHSと聴診器を掴みとった。 「緒方が直ぐにそっちに行くと言ってくれ」  電話を取っていた医師にそう言い放ち、忍は医局を飛び出して行った。 *
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