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前を向き、ハンドルを握ったまま大河は、ああ、と答えた。
「実は、美羽を病院に送った後、おばさんから電話があったんだ」
「お母さんから!?」
予想だにしなかった大河の言葉に美羽は倒していたシートから身体を起こした。
大河はそんな美羽をさりげなくシートに寝かせ、言った。
「美羽を、しばらく頼むって。
美羽が困らないように身の回りの最低限のものをまとめたから、俺に取りに来てほしいって」
大河はそう言うと、後部座席を指さした。
指された先の革張りのシートの上に、美羽が愛用していた赤い小型トランクが置かれていた。
「お母さん……」
複雑な想いを抱えて呟いた美羽を気持ちを汲んだのか、大河は言葉を継いだ。
「ああ、誤解するなよ。
もう帰ってくるな、っていう意味じゃないみたいだから」
美羽が大河に視線を向けると、鼻が高く彫りの深い横顔が前方を見つめていた。
「どういう、意味?」
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