約束のラフマニノフは、別れの序曲

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 忍は、机に浅く腰掛け、マグカップに口を付けながら外を眺めた。  柔らかな陽射しが降り注ぐ庭が見える。 奈緒が丁寧に造り上げたイングリッシュガーデンは、一年の大半は色とりどりの花が咲き乱れ、見目鮮やかな景観が楽しめる。 しかし、今はちょうど、開花時期の谷間となっていた。 太陽の光を白く反射する椿の葉が、かろうじて辺りを明るくはしていたが、色のない庭は、モノトーンのようだった。  雨に煙っていたあの夜も、この庭はモノトーンに見えた。  忍の目が、庭の中央、丸くレンガを敷きつめた瀟洒なテラス風のスペースで、止まった。 そこは、数か月前大嵐の中で美羽が倒れていた場所だった。
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