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信じるものは #3
美羽は、小さく頷くだけだったが、大河はドアを静かに閉めながら奈川に深く頭を下げた。
ブルーのBMWが病院の敷地から大通りに出て見えなくなるまで見送っていた奈川の表情が曇る。
「なにもなければいいんだけど……」
小さく呟き、畳んだ車椅子を押しながら、奈川は建物の中へ戻っていった。
週末の夜、国道は緩やかな渋滞を見せていた。
連なるテールランプを前方に見据え、大河は助手席に座る美羽に視線を送った。
「美羽」
「ん?」
倒したシートに身体を預け、ぐったりとしていた美羽だったが、大河に呼ばれ、顔を向けて笑みをみせた。
「ごめんな、俺が夕べ、無理に……」
「大河。
私、謝らないで、って今朝言ったよ」
美羽は、ギアに掛けられていた大河の手に、自分の手をそっと添えた。
瞳は真っ直ぐに大河を見つめていた。
信号で停車した車内、外から漏れる明かりの下、幻想的な影を見せる美羽の顔を真正面で捉えた大河の胸が、ドキンと鳴った。
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