約束のラフマニノフは、別れの序曲 #2

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 美羽を見た黛は、肩を竦めてフワリと笑う。 「どうかな」  優しい時間が流れる空間。 美羽は‘彼’を思い出す。 「いつも思っていたの。 黛先生、お兄さんになんとなく似てるなって」  少し意外そうな顔をした黛だったが、直ぐにアハハと笑った。 「僕はあんなにツンツンと澄ましてないよ」 「ツンツンだなんて……」  黛と一緒に笑った美羽だったが、胸に走る微かな痛みを覚えていた。 兄は、外でどんな顔を見せるのだろうか。 柔らかな針で刺すような痛みは、胸の奥底にそっとしまった。  同じ大学に通う学生も来ていると思われたが、幸い、席が特S席という学生には高価過ぎるせいか、付近に美羽の知り合いはいなかった。 開演時間が迫っていたことも起因していたのだろう。  2000名弱を収容可能の大ホールは、ステージ奥に重厚荘厳なパイプオルガンを据える。 チケットは、そのステージを正面に見られる一階中央、劇場でいう‘平土間席’と呼ばれる特上席の指定席券だった。
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