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美羽を見た黛は、肩を竦めてフワリと笑う。
「どうかな」
優しい時間が流れる空間。
美羽は‘彼’を思い出す。
「いつも思っていたの。
黛先生、お兄さんになんとなく似てるなって」
少し意外そうな顔をした黛だったが、直ぐにアハハと笑った。
「僕はあんなにツンツンと澄ましてないよ」
「ツンツンだなんて……」
黛と一緒に笑った美羽だったが、胸に走る微かな痛みを覚えていた。
兄は、外でどんな顔を見せるのだろうか。
柔らかな針で刺すような痛みは、胸の奥底にそっとしまった。
同じ大学に通う学生も来ていると思われたが、幸い、席が特S席という学生には高価過ぎるせいか、付近に美羽の知り合いはいなかった。
開演時間が迫っていたことも起因していたのだろう。
2000名弱を収容可能の大ホールは、ステージ奥に重厚荘厳なパイプオルガンを据える。
チケットは、そのステージを正面に見られる一階中央、劇場でいう‘平土間席’と呼ばれる特上席の指定席券だった。
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