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「私は、どうしたらいいんでしょうか」
美羽の口から、ぽろりとこぼれた言葉には、悲哀が籠る。
黛は、美羽の頭をそっと撫でた。
「ともかく、今夜はコンサートを楽しもう。
どんな辛い思い出を秘めた曲でも、極上の演奏だったら、美羽ちゃんの心の傷を癒す手伝いをしてくれる、きっと」
極上の音楽を、最高級の演奏で。
美羽が、涙を拭い、小さく頷いた時、開演を知らせるアナウンスが響き、ステージにはオーケストラが揃った。
そして、指揮者が現れ、今夜の主役、ピアニストが登場して客席から大きな拍手が沸き起こった。
黛は、拍手をしながらそっと美羽に言った。
「今夜は、こうして緒方さんに会えて良かったよ」
「え?」
美羽が隣の黛を見上げると、柔らかな視線とぶつかった。
「僕は恐らく、年明けにはもう大学にはいないから」
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