約束のラフマニノフは、別れの序曲 #2

2/15
前へ
/35ページ
次へ
「あと少しだ」  頼む、もう少し堪えてくれ! 心中で叫ぶ忍の声をあざ笑うように、心電図の警報音が鳴り響く。 「緒方、もう限界だ! 70切るぞ!」 「戻ってこい!」  忍が声に出した時、患者の胸元が微かに空気を含んだように見えた。 忍はプランジャを引く手を止め、その場にいた全員が息を呑んだ。 成り行きを見守る。  患者の口元が、酸素マスクの中でゆっくりと動き、空気を取り込んだ。 そして、肺に酸素が流れていく。 「やった……」  先に声を漏らしたのは、同僚医師だった。  吸い込んだ酸素を、患者は自らの力で吐き出した。 自発呼吸が戻ってきたのだ。 「ああ、戻ったな」  つぶやくように言った忍の声に、安堵の色が滲んでいた。  
/35ページ

最初のコメントを投稿しよう!

35人が本棚に入れています
本棚に追加