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「あと少しだ」
頼む、もう少し堪えてくれ! 心中で叫ぶ忍の声をあざ笑うように、心電図の警報音が鳴り響く。
「緒方、もう限界だ! 70切るぞ!」
「戻ってこい!」
忍が声に出した時、患者の胸元が微かに空気を含んだように見えた。
忍はプランジャを引く手を止め、その場にいた全員が息を呑んだ。
成り行きを見守る。
患者の口元が、酸素マスクの中でゆっくりと動き、空気を取り込んだ。
そして、肺に酸素が流れていく。
「やった……」
先に声を漏らしたのは、同僚医師だった。
吸い込んだ酸素を、患者は自らの力で吐き出した。
自発呼吸が戻ってきたのだ。
「ああ、戻ったな」
つぶやくように言った忍の声に、安堵の色が滲んでいた。
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