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「すみません、緒方先生。お休みだったのに」
病室を出たところで康太が忍に頭を下げた。
忍は手袋をはずしながら静かに言った。
「どちらにしても、お前一人じゃできないことだったからな。
よかったんだ、これで。
ただ、今やるべきことの優先順位だけは間違えるな」
康太は頭を下げたまま、はい! と答えた。
「まだ予断は許さない容態だ。
もう休みは返上だな。
俺も今夜はずっといるから」
そう話す忍の脳裏に浮かんだのは、今夜のコンサート会場である池袋の芸術劇場の広いロビーで立ち尽くす美羽の姿だった。
結局、アイツに頼むことになってしまった。
最後のチャンスもこれで消えた、と心中で呟いた忍は大きく息を吐き、ナースステーションへ向かって歩き出した。
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