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立ち上がりながら腕時計を見た黛に、忍は言った。
「悪いな、電車、まだあるか?」
「んー、微妙だね」
黛は苦笑いを浮かべた。
忍は、視線を誠に向けた。
「誠、お前酒呑んでないよな」
唐突に振られ、誠は、え!? と声を上げた。
「のんでない……けど?」
兄の言いたいことはだいたい察しが付いた。
「黛、誠が送ってくれるそうだ」
「へ?」
この展開はある程度予測していたが、こちらの意志も都合も完全に無視して当然のように言い切った兄に誠は思わず間抜けな声を出してしまった。
昔から兄の言葉は絶対だった。
こうなることは分かっていた。
しかし、久しぶりに絶対的主従関係を叩き付けられ、相変わらず僕に拒否権なんてないんだな、と心中でぼやかずにはいられなかった。
「いや、それは……」と困惑する黛に、誠は言った。
「気にしないでください、黛さん。
美羽の恩人なんですから、このくらいさせてください」
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