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北の方角から建物の中に吹き込んだ冷たい風にフルッと震えた美羽は、大河を想った。
ほんの一瞬でも、迷ったその理由は体調ではない。大河だった。
朝仕事に出かけた大河からは、夕方、美羽が出かけるまで一度も連絡はなかった。
今こうしている間にも、美羽の手元の携帯が鳴る様子はない。
出勤前の大河の様子から、会社で何かトラブルが起きた事が窺い知れた。
今大河は、連絡する暇が取れぬ程立て込んでいるのだろう。
大河に、何も言わずにこんなところまで出かけて来てしまったことに申し訳なさと後ろめたさのような感情を抱いた美羽だったが、仕事に追われる彼に自分の我儘を伝える気持ちにはなれなかった。
ごめんなさい、大河。
心中でそっと呟く美羽は自身の心に言い訳をしていた。
これは、兄と私の関係に決着を付ける為なの。
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