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「大丈夫です。寒い時はいつもこんな感じです。それより……」
「今夜は僕がお供させてもらうよ」
言葉の先を読んだように言った黛に、美羽は聞く。
「黛先生は、私とお兄さんの約束を知っていたの?」
黛は優しく微笑み頷いた。
「もう、かなり前から。
あやうく忘れてしまいそうなくらい前に」
肩を竦めて笑った黛は、驚いた表情を浮かべる美羽を見つめて続けた。
「緒方は、あんな仕事だから、当日何があるか分からない。
だから、もしもの時は僕に行って欲しいって。
何かあった時は恐らく電話もできないだろうから、直前に緒方から確認の連絡が無い場合はここに来る、っていう段取りになっていたんだ」
美羽は、ああだから、とバッグの中からチケットを取り出した。
「だからお兄さんは二枚とも私に――」
言葉はそれ以上出て来なかった。
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