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約束のラフマニノフは、別れの序曲 #2
忍のすることを一瞬でも見逃すまいと傍に立ち、瞬きもせずに見つめたいた康太は、ハッと顔を上げた。
忍の視線は変わらず手元にあったが、康太に語り掛けるように話し始めた。
「野間さんは、ACB(冠動脈バイパス手術)の後、誤嚥性肺炎。
決して油断してはいけないクランケだったはずだ。
ピッチに出ない、というのは言語道断だ。
俺達の、一番大切なことは、何だ?
目の前のクランケだろう?」
低く穏やかな声であったが、忍の言葉は康太の胸に重く響いた。俯いてしまった康太に忍は続けた。
「お前の中にある強い正義感は、決して失って欲しくは無い大事なものだが、医師がすべき第一の目的を見失ったら、それは本末転倒だ。
わかるな」
康太が掠れそうな声で、はい、と答えた時だった。
「緒方、やばいぞ! 血圧が!」
忍は一瞬だけ視線を心電図に移したが、直ぐに手元に戻した。
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