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忍の姿が、美羽の中を一気に占める。
胸に迫るような切なさが襲う。
思わず、お兄さん、と声に出しそうになって、美羽は口を閉ざした。
なんとも言い難い表情を浮かべる美羽を見、誠はナースコールを押すのを一旦やめ、ベッドの傍に備えられていたパイプ椅子を引き寄せ、座った。
「美羽」
改めて誠は美羽を真っ直ぐに見つめ、美羽も誠の視線をしっかりと受け止めた。
「家であったことは、全てではないかもだけど、だいたいは父さんから聞いたよ。
僕が美羽に言ってあげられるのは、美羽は自分の気持ちに素直になってもいいんだよってことかな」
「まこちゃん……」
誠は人の心の中を、考えすぎではと言うほど先読みしてしまう。
それは昔から。
そんな性格が災いして、思い切った行動を取れず無難にこじんまりしてしまうのが誠の短所だったが、こんな時はかえってその性格が優しさとなって人の心を包む。
美羽の言葉にできない辛い想いを、誠は今必死に汲み取ろうとしていた。
「でも、まあ、これには色々と……障害も事情も、あるみたいだね。
ほら、ややこしい事情、とか。
美羽自身、迷ってるのかな、とか思ったり」
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