46人が本棚に入れています
本棚に追加
「斉藤」
いきなり名を呼ばれ康太は、ハイッ! と頓狂な声と共に背筋を伸ばして顔を上げた。
椅子に座る忍は少し驚いた表情を見せたが直ぐに元の涼しげな表情に戻り、言った。
「お前、このパソコン、この二日くらいの間に使ったか?」
康太は咄嗟に、何を聞かれたのか分からず、え? と聞き返して直ぐに言葉の意を理解した。
「パソコン? そんな、緒方先生のなんてまさか。
なにより、使う時は自分のを使いますし」
答える康太をじっと見つめ、その表情の奥にある真相を探っていた忍は彼の中に嘘はないな、と判断した。
「そうだよな、悪い、変なことを聞いた」
「いえ、それより、何かあったんですか」
忍は椅子を回転させ、再びパソコンに向かった。
「何かあった、といえば、あったんだろうな」
康太は独り言のような忍の言葉の意が汲み取れず、首を傾げた。パソコンの画面を睨む忍は徐に口を開く。
「お前がこの先も‘医者’でいたいのなら、もうこの件には首を突っ込むな」
目を見開いた康太は一瞬、呼吸も忘れて食い入るように忍を見つめた。
最初のコメントを投稿しよう!