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「いいか、斉藤。
この世界の縦横の繋がりはお前が思っているほど単純じゃない。
不正をすっぱ抜けば、その内容よりもそれを告発した当人の情報の方が重要な案件として蜘蛛の巣のように張り巡らされたネットワークによって医師界に知れ渡る。
これは、本当は正義であった行動も決していい方向には働かない、ということを意味している。
正義を貫いた筈の人間が、完全に要注意人物になる。
それがどういうことかわかるか。
国内での医師としての道を塞がれる、ということだ。
身の置き場所がなくなる、ということなんだ」
「道を、塞がれる……」
康太は、そんな……、と呟いだきり押し黙った。
なぜ、いけない事がまかり通ってしまうのか。
それをいけない、と正そうとした人間がどうして糾弾されなければいけないのか。
自分はただ、その先に患者を第一に考える医療の未来があると信じていただけなのに。
康太は、生気の無くなった目で忍を見た。
この、目の前にいる医師も、結局は自身の保身の為だけにこんなことを言っているんだ。
自らのオーベンに抱いていた希望が打ち砕かれた、そんな失望に康太は打ちひしがれ、立ち尽くした。
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