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黛の問いに誠は素直に、はい、と頷いた。
「僕が兄の中に初めて見た、人間らしい感情だったから、だと思います。
僕にとって、あまりに完璧で畏怖を超えて脅威となりつつあった兄が、初めて見せた弱い面だったんです。
だから、僕は兄の感情を素直に受け止めて、見守ってきたんです。
それに、美羽にとってだって、兄ほどに相応しい男はいないと思ったから。
でも、そこは世間的には兄妹なんだし、そのまま平行線を辿ってくのかなって思っていたんですけど」
一気に話した誠は、最後に苦笑いを浮かべた。
「兄はやっぱり男でした」
ああそういう意味か、と黛も苦笑いを浮かべる。
車は外環道を経て首都高に入っていた。
走行する車が一気に増え、分岐の表示も増え、景色はめまぐるしく変わる。
流れに乗る車は、車線変更を繰り返し、都心へと向かっていた。
誠は前を向いたまま、言った。
「黛さん、池之端でしたよね」
車窓に移り込む高層ビルの明かりを見ながら、そう、と答えた黛は、静かに誠に話し掛けた。
「僕は、しばらく日本を離れなければいけないんだ」
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