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「ああ、聞こえた」
胸に、甘酸っぱいような切なさが拡がる。
美羽は、声を上げて兄を呼び、身体が動けば今すぐにでも両手を伸ばして兄に抱きつきたかった。
身体の芯から、心の底から込み上げてくる狂おしい程の愛しさに耐え切れず溢れ出した涙は美羽の視界を曇らせた。
「お兄さん……」
もっと、傍に来て。
もっと、あなたを感じさせて。
口に出来ない想いが伝わったのか、忍は目を閉じ、美羽の手を顔のところに持ってくると祈るような形で握り締めた。
心地よい冷たさが伝わるしなやかな手の感触に、美羽の心が媚薬に浮かされたように微かに痺れる。
そう、この手。
この手が、いつも不安の闇に沈んでいきそうな私を救い出してくれたの。
力無かった美羽の手が、忍の手を微かに握り返した。
忍は、その白く冷たい美羽の手にそっと唇を寄せた。
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