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奈緒の声は、美羽が思わず顔を上げたほど柔らかで穏やかだった。
「おかあさん」
胸に、ずっとため込んできた感情がどっと溢れ、言葉はそれ以上出てこなかった。
代わりに堪えていた涙が溢れる。
それを見た奈緒は立ち上がり、バッグから出したハンカチで美羽の頬を拭った。
奈緒のハンカチ香りが、美羽の鼻先を掠めた。
幼い日、自分を可愛がってくれていた頃の母の香りと変わっていなかった。
美羽の胸が熱くなる。思わず声を上げて泣き出していた。
「おかあさん、おかあさん……」
奈緒は、美羽の頭をそっと撫でた。
その手から伝わる感触は優しかった。
「美羽、あなたが悪いんじゃないの。
でも、どうしても当たらずにはいられなかった。
本当に、ごめんなさい」
美羽は、首を振った。
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