111人が本棚に入れています
本棚に追加
告発によって、国内の医療現場から追放された医師もいる。
自分にもこの先、そんな可能性が見えている。
忍にしてみれば、それでもよかった。
自分が守るべきものは彼女以外に何もないのだから。
呼吸も忘れそうな緊張の渡り合いに、沈黙が辺りを包む。
昼間なのに、日差しが感じられないようなグレーの世界に見えた。
「それは」
原が、静かに重い声を発した。
「君の妹のことか」
そうです、と答えた忍はこの時、今まで口にしなかった、原の知らない事実を告げた。
「その妹なのですが、彼女は僕の実の妹ではありません。
彼女の母親は、貴方が主治医を勤めた、緒方沙羽です」
原の表情が凍り付いたのを見た瞬間、忍はすべてを悟った。
目の前にいるこの恩師が、美羽の父親だ。
最初のコメントを投稿しよう!