自己の責任に於いて

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 告発によって、国内の医療現場から追放された医師もいる。 自分にもこの先、そんな可能性が見えている。 忍にしてみれば、それでもよかった。 自分が守るべきものは彼女以外に何もないのだから。  呼吸も忘れそうな緊張の渡り合いに、沈黙が辺りを包む。 昼間なのに、日差しが感じられないようなグレーの世界に見えた。 「それは」  原が、静かに重い声を発した。 「君の妹のことか」  そうです、と答えた忍はこの時、今まで口にしなかった、原の知らない事実を告げた。 「その妹なのですが、彼女は僕の実の妹ではありません。 彼女の母親は、貴方が主治医を勤めた、緒方沙羽です」  原の表情が凍り付いたのを見た瞬間、忍はすべてを悟った。  目の前にいるこの恩師が、美羽の父親だ。
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