自己の責任に於いて

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 忍は震えそうな声を押さえて静かに冷静に言葉を継いだ。 「今一度、妹の年齢をお伝えしておきましょうか。 20歳です」  目を見開き、忍を凝視していた原が、すっと視線を外して窓の外を見た。 「それで?」  知らぬふりの言葉なのか、話しを続きを促しての相槌なのか、声からも表情からも窺えなかったが、忍は構わず続けた。 「叔母、沙羽は亡くなるまで結婚もせず、誰かと交際をした形跡も残しませんでした。 それはつまり、最期まで産み落とした子の父親を口にしなかった、という事です」  忍の言葉が終わらぬうちに原は完全に背を向けてしまった。 しかし、ここで話しを止めるわけにはいかない。 忍は言った。 「叔母は、最期まで自分の残した大切な命を守ることに必死でした。娘に出来る限りの愛情を注いで逝きました。 そんな叔母が残した大事なものを守れなかった僕には果たすべき責任があるんですよ。 それは、医師としてではなく、一人の人間として」  背を向けたままの原は、忍の言ったことには答えなかったが、別の言葉で返した。 「〝死なばもろとも〟か。 言い得て妙だね。 よく覚えておくよ。 君の気が済むように、やりなさい。 私はもう何も言わないよ」 *
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