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部屋を出、一人廊下を歩いていた原は、フッと笑った。
誰もいない渡り廊下。
窓の外で風に吹かれ揺れる欅が見えた。
原は小さく呟く。
「緒方君。君と僕とは結局、運命共同体となる宿命にあったのかもしれませんね」
*
医局に戻って来て、まるで何事も無かったかのように自分のデスクに着き、パソコンをいじり出した忍の元へ、康太は走り寄り、頭を下げた。
「緒方先生、申し訳ありません!
僕は、僕は――」
なんてことをしてしまったのだろう。
一気に押し寄せてくる後悔という感情に呑み込まれそうになり言葉を詰まらせた康太は、どんな詫びから口にしたら良いのか分からず、頭が上げられなかった。
ただ、言葉に出来ない分、涙となって次から次へと溢れてきた。
康太の目からこぼれた涙は床に落ちる。
「ぼくは、ぼくは――自分の正義を、貫くことしか、考えてなくて……それで、緒方先生にこんな、めいわく、とかかかるとか――緒方先生に、こんなめいわく、かけるつもりはなかったのに」
言いたいことがまとまらなかった。
康太はただ、ボタボタ落ちて床に広がる涙を曇る視界の中で見つめ、途切れ途切れにしか出てこない言葉をひたすら呪文のように繰り返し、出来る限りで気持ちを伝えた。
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