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幸いこの時間、医師は皆回診等で出払っており医局には誰もおらず二人きりだった。
しかし、ここに誰かがいようと自分はこの尊敬するオーベンにこうして頭を下げ、嗚咽混じりの言葉を吐き出していただろうと康太は思う。
「このままじゃ、緒方先生が、ここを――。
ぼくはなんてことを……」
ポンポン、と優しい手が康太の頭を叩いた。
「泣いて謝るくらいなら、始めからあんな事はするな。邪魔しやがってこの野郎、くらいの気概で俺に食って掛かる覚悟を持ってやらなきゃ駄目だろう」
康太は、えっ? と涙でぐちゃぐちゃの顔を上げた。
柔らかな笑みを浮かべた忍が、康太を見ていた。
「オーベンが自分の指導するネーベンを守るのは当然だ」
忍は康太の頭をポンと叩いて笑った。
「もしお前が自分の行動を顧みもせずに暴走するとんでもない研修医でも。俺は同じ事をしていた。
俺は、俺の仕事をしたまでだ。
お前はその信念を曲げることはないんだ」
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