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そこで忍は一度言葉を切り、康太はゴクリと固唾を呑んで次の言葉を待った。
忍は、康太の頭にのせていた手をもう一度クシャッと撫で、視線をしっかりと合わせた。
「自分が信じる正義を強引に貫く時、傍にいる人間誰か犠牲にする事になるかもしれない。
それを必ず覚えていて欲しい」
康太は、忍の言葉を反芻した。
――正義を貫こうとすると、誰かが犠牲を?
今回は紛れもなく緒方先生だ!
康太は再び深く頭を下げて言った。
「本当にその通りです。
今回は、独りよがりとも言える僕お勝手で緒方先生が――」
「それは違う」
康太の言葉にかぶせる形で忍が言った。
「俺は今回何も犠牲になったと思っていない。
責任を取ることにはなるだろうが、医師免許まで取り上げられることはないだろう」
「そ、それはそうですけど、緒方先生の処遇が……」
おずおずと言った康太に忍はフッと笑った。
「それは心配するな。
俺はいずれここを辞める身だ。
お前は自分の心配をしろ」
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