守るべきもの

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 昼下がり、麗らかな日差しが南側の窓から差し込み、病室の中には暖かな陽だまりが出来ていた。 「少しだけ、窓を開けて外の空気を入れましょうか」  看護師が、車椅子に乗ってテレビを観ていた美羽に話し掛けた。 「ええ、お願いします」  笑みを浮かべて答えた美羽を見て、看護師は安堵の表情を浮かべ、窓を少しだけ開けた。 「今日は、顔色がいいわね、気分も良さそう」  美羽は、ええ、と微笑んだ。 「師長さんから、ベッドから下りていいって許可が下りたから」 「まあ、体調が落ち着いているから、許可が下りて、そこに相乗効果?」 「はい」と笑った美羽に看護師も一緒に笑った。 「じゃあ、その絶好調のまま、採血と行きましょう」 「はーい」  点滴を変え、採血を終えて看護師が出て行くと、部屋はテレビからの音が聞こえるのみとなる。  テレビは、話題のレストランや料理屋、ファッションの情報などを絶え間なく垂れ流していた。 タレントたちの元気よい掛け合いに笑い声が美羽の目には現実世界のものではないように映っていた。
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